Laputa News【 相続 】 2018.7.15
相続法の改正をご存知ですか |
2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました(同年7月13日公布)。本ページでは、この相続法の改正について、情報提供いたします。
◆ 内容を更新いたしました。 < 2019年9月30日 税制改正情報を追記 > ◆ 改正法の多くは、2019年7月1日から施行されます。この改正法の施行に伴い、既に遺言書を作成されて相続対策をされている方におかれましても、見直しが必要となる場合があります。 ◆ 配偶者の居住権を保護するための方策
相続法の改正により、配偶者の居住権を保護するための方策として、配偶者短期居住権と配偶者居住権が定められました。 配偶者短期居住権は、被相続人の建物に無償で居住していた被相続人の配偶者について、最低でも6ヵ月間、その居住建物に係るその配偶者の居住権を認めるものです。配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合において、その居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をする場合、配偶者は、遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間または相続開始の時から6ヵ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用することができることとされます。また、遺贈等により配偶者以外の第三者がその居住建物の所有権を取得する場合や配偶者が相続の放棄をした場合等にあっては、その居住建物の所有権を取得した者はいつでも配偶者に対して配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができるが、配偶者は、その申入れを受けた日から6ヵ月を経過するまでの間、引き続き無償でその建物を使用することができることとされます。 配偶者居住権は、この度の改正により新設される法定の権利です。被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身または一定期間、その配偶者にその使用または収益を認めることを内容とする法定の権利を新設し、遺産分割における選択肢の一つとして配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするものです。配偶者居住権の価値評価については、法制審議会民法(相続関係)部会において一定の考え方が示されていますが、今後の動向に留意する必要があります。 この改正は、2020年4月1日 から施行されます。 【税制改正情報】令和元年度税制改正において、配偶者居住権等の評価額が次のとおり法定されました。 イ 配偶者居住権 建物の時価-建物の時価✕(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数✕存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率 ロ 配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」といいます。)の所有権 建物の時価-配偶者居住権の価額 ハ 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利 土地等の時価-土地等の時価✕存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率 ニ 居住建物の敷地の所有権等 土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額 (注1)上記の「建物の時価」及び「土地等の時価」は、それぞれ配偶者居住権が設定されていないものとした場合の建物の時価又は土地等の時価をいいます。 (注2)上記の「残存耐用年数」とは、居住建物の所得税法に基づいて定められている耐用年数(住宅用)に1.5を乗じて計算した年数から居住建物の築後経過年数を控除した年数をいいます。 (注3)上記の「存続年数」とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める年数をいいます。 イ 配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身の間である場合:配偶者の平均余命年数 ロ イ以外の場合:遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間の年数(配偶者の平均余命年数を上限とします。) ※ 物納劣後財産の範囲に配偶者居住権が設定された建物及びその敷地が加えられました。 ◆ 遺産分割に関する見直し
相続法の改正により、遺産分割に関する見直しの一つとして、配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)が定められました。具体的には、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が、他方配偶者に対し、その居住用建物またはその敷地(居住用不動産)を遺贈または贈与した場合については、民法第903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定することとし、遺産分割においては、原則として、当該居住用不動産の持戻し計算は不要とされます(当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算することとされます)。 次に、遺産分割に関する見直しの一つとして、仮払い制度等の創設及びその要件の明確化が図られます。仮払い制度等の創設及びその要件明確化については、大別すると、家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策(前者の方策)と、家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める方策(後者の方策)に分けられます。 前者の方策は、具体的には、預貯金債権の仮分割の仮処分について、家事事件手続法第200条第2項の要件(事件の関係人の急迫の危険の防止の必要があること)を緩和することとし、家庭裁判所は、遺産の分割の審判または調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは、他の共同相続人の利益を害しない限り、申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部を仮に取得させることができることとされます。 後者の方策は、具体的には、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち各口座ごとに所定の計算式で求められる額( 【 計算式 】 単独で払戻しをすることができる額 = ( 相続開始時の預貯金債権の額 ) × ( 3分の1 ) × ( 当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分 ) ただし、同一の金融機関に対する権利行使は150万円を限度とする )までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができることとされます。 続いて、遺産分割に関する見直しの一つとして、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲に関する規律が創設されます。具体的には、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができることとされます。また、共同相続人の一人または数人が遺産の分割前に遺産に属する財産の処分をした場合には、当該処分をした共同相続人については、上記の同意を得ることを要しないこととされます。 この改正は、2019年7月1日 から施行されます。 ◆ 遺言制度に関する見直し
相続法の改正により、遺言制度に関する見直しの一つとして、自筆証書遺言の方式の緩和が図られます。具体的には、全文の自書を要求している現行の自筆証書遺言の方式を緩和し、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいこととされます。ただし、財産目録の各頁に署名押印することを要します。この改正は、2019年1月13日から施行されます。 あわせて、法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度が新たに設けられます(詳細は後述)。この新制度は、2020年7月10日 から実施されます。 次に、遺言制度に関する見直しの一つとして、遺言執行者の権限の明確化が図られます。具体的には、遺言執行者の一般的な権限として、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は相続人に対して直接にその効力を生ずることが明文化されます。また、特定遺贈または特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言のうち遺産分割方法の指定として特定の財産の承継が定められたもの)がされた場合における遺言執行者の権限等が明確化されます。遺言者が特定財産承継遺言をした場合において、遺言執行者があるときは、遺言執行者は、その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます。この対象となる財産が預貯金債権であるときは、遺言執行者は、当該預貯金の払戻しの請求及び当該預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをする権限を有します(ただし、その解約の申入れについては、特定財産承継遺言の目的である財産がその預貯金債権の全部である場合に限ります)。なお、遺言者が遺言において別段の意思を表示したときはその意思に従います。この改正は、2019年7月1日 から施行されます。 ◆ 遺留分制度に関する見直し
相続法の改正により、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行法の規律が見直され、遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることとされます。また、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者または受贈者が金銭を直ちには準備できない場合には、受遺者等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払につき期限の許与を求めることができることとされます。なお、相続人に対する贈与のうち特別受益にあたるものは、特段の事情がない限りすべての期間の贈与が遺留分の算定に算入される現行法の規律についても見直され、相続開始前10年間にされたものに限って算入されることとされます。この改正は、2019年7月1日 から施行されます。 ◆ 相続の効力等に関する見直し
相続法の改正により、特定財産承継遺言等により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされている現行法の規律が見直され、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないこととされます。この改正は、2019年7月1日 から施行されます。 ◆ 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
相続法の改正により、相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件の下で、相続人に対して金銭請求をすることができることとされます。この改正は、2019年7月1日 から施行されます。 ● 法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「遺言書保管法」という)について
◆ 遺言書の保管の申請 保管の申請の対象となるのは、自筆証書遺言に係る遺言書のみです。また、遺言書は、封のされていない法務省令で定める様式(別途定められる予定)に従って作成されたものでなければなりません。 遺言書の保管に関する事務は、法務局のうち法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)において、遺言書保管官として指定された法務事務官が取り扱います。 遺言書の保管の申請は、遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対してすることができます。 遺言書の保管の申請は、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければなりません。その際、遺言書保管官は、申請人が本人であるかどうかの確認を行います。 ◆ 遺言書保管官による遺言書の保管及び情報の管理 保管の申請がされた遺言書については、遺言書保管官が、遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに、その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することとなります。 ◆ 遺言者による遺言書の閲覧、保管の申請の撤回 遺言者は、保管されている遺言書について、その閲覧を請求することができ、また、遺言書の保管の申請を撤回することができます。保管の申請が撤回されると、遺言書保管官は、遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に係る情報を消去します。遺言者の生存中は、遺言者以外の者は、遺言書の閲覧等を行うことはできません。 ◆ 遺言書の保管の有無の照会及び相続人等による証明書の請求等 特定の死亡している者について、自己(請求者)が相続人、受遺者等となっている遺言書(関係遺言書)が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。 遺言者の相続人、受遺者等は、遺言者の死亡後、遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をすることができます。 遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付しまたは相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは、速やかに、当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人、受遺者及び遺言執行者に通知します。 ◆ 遺言書の検認の適用除外 遺言書保管所に保管されている遺言書については、 遺言書の検認の規定は適用されません。 ◆ 手数料 遺言書の保管の申請、遺言書の閲覧請求、遺言書情報証明書または遺言書保管事実証明書の交付の請求をするには,手数料を納める必要があります。 [関連情報]
● ファミリーオフィス・サービス ( 個人のお客さま ) ● 高齢の方との各種お取引、相続に関する研修 ( 研修をご検討の方 ) [ ご参考情報 ] ● 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正) 法務省ウェブページ ● (PDFファイル) 約40年ぶりの相続法の大改正 立法と調査 2018.11 No.406 参議院常任委員会調査室・特別調査室 〜 これまでの相続法の改正、法制審議会における審議の経過の概要等について知ることができます。 ● (PDFファイル) 遺産分割前の相続預金の払戻し制度 全国銀行協会ウェブページ 〜 相続法の改正により可能となった、相続預金の払戻し制度の概要について知ることができます。 |